先天性眼瞼下垂とは
生まれつき瞼が下がっていて、努力しても目が開かない方がいらっしゃいます。眉毛を上げて物を見るため目と眉毛の間隔が広がっています。片目の場合も両目の場合もあります。これは目を開ける眼瞼挙筋が生まれつきなかったり、発達が悪いために起こります。手術はすべて局所麻酔を用いた外来手術で行います。そのため多くは患者さんの協力が得られる高校生以上の方に行っています。保険治療が可能です。
挙筋短縮法
目を開ける機能がどれだけあるかによって手術法が変わります。上を見た時と下を見た時の上瞼の動きの範囲が7mmまである場合と4mmしかない場合で手術法が変わってきます。上瞼の動きが7mmまである場合は、眼瞼挙筋は残っていますが未発達なために動きが悪い状態です。この場合には残っている眼瞼挙筋を奥の方から引き出してきて、瞼板に固定して目を吊り上げます。問題は先天性の場合、筋肉の柔軟性はありませんので目が吊り上がったままの状態になり、目がつぶりにくくなることです。片側の場合は目をつぶると手術した方の目は薄目が開いた状態になります。また下を向くと手術した方の目は下がりませんので、黒目の上に白目が露出してびっくり目に見えます。ですので人前で下を向くときは頭ごと下を向くようにしないと、目の前の人はびっくりするかもしれません。そのため術後数ヶ月は目の乾燥を防ぐために寝ている間は目に軟膏を入れてガーゼとテープでフタをしておく必要があります。しかし数ヶ月から数年の経過でかなり目がつぶれるようになってきますので長期経過では見た目の違和感が少なくなっていきます。切開した部分は二重の状態になります。挙筋短縮法は正確には外角内角切開挙筋ミュラー筋前転法といいます。
側頭筋膜移植による吊り上げ
目の動きが4mm以下の場合は眼瞼挙筋が欠損していますので、われわれは側頭筋膜といって耳の上の部分にある側頭筋の表面にある薄い膜を採取してこれを目の吊り上げに用います。一般には太ももの外側にある大腿筋膜を使うことが多いのですが、術後に歩行時の痛みがあることや傷痕が残ることから、われわれは手術のときに目のすぐ近くから採取できて術後の痛みが少なく傷痕が毛に隠れてわからない、側頭筋膜を使っています。最初は物を咬むと少し傷が痛みますがそれはすぐに治りますし、筋膜を取っても機能障害は残しません。瞼の切開から眉毛の上の切開までの間にトンネルを作り、帯状にした筋膜を瞼に固定して眉毛上に出して瞼を引き上げます。筋膜の先端は前頭筋という眉毛を上げる筋肉に固定しますので、眉を上げると大きく目を開けることができます。このタイプの下垂は両側性に起きますので、左右に手術を行います。いくらでも引き上げて目を大きく見せることができますが、あまり上げ過ぎると目が乾いてしまいますので、実際には瞳孔が見える程度にしか上げられません。夜間には常に目にフタをして寝ることになります。すばやく目がつぶれませんので、風が目に入ると涙がこぼれ落ちたり、顔を洗うと目に水が入ったりしますが、徐々に慣れてきますので心配要りません。
手術の手順
手術の手順
1)まず瞼を切開して眼瞼挙筋の状態を確認します。眼瞼挙筋が存在していればそれを引き出して瞼板に固定します。二重の固定をして皮膚を縫合します。
2)もし眼瞼挙筋がなければ、左右どちらかの側頭部に横方向の切開を加え側頭筋膜を切除して取り出します。側頭部は皮膚を縫合します。手術に際して毛は剃りませんし、傷は毛で隠せますので傷痕は見えません。
3)側頭筋膜を帯状に2分割します。
4)眉毛直上を小さく切開して、眼輪筋の下にトンネルを作製し隔膜から本来眼瞼挙筋がある層までトンネルを作り、瞼の切開とつなげます。帯状の筋膜を瞼板に固定してその他端を眉毛上に引き上げ、目の開きを調節して眉毛上にある前頭筋に固定します。
5)眉毛上の皮膚をきれいに縫合します。この傷痕はほとんど目立ちません。
6)最後に二重のラインを固定して皮膚を縫合します。
7)術後は腫れますので冷水タオルをのせて2日ほど冷やします。
8)目の乾燥を防ぐため、寝る前に目に軟膏を入れてガーゼとテープでフタをします。これは数週間から数ヶ月続ける必要があります。
9)手術翌日からシャワーで頭も洗えます。
10)1週から10日後に抜糸します。
11)わずかな左右差が出ることがありますので、その場合は半年くらいの経過を見て修正することが可能です。